平 家 物 語  祇園精舎の鐘の声  諸行無常の響きあり  沙羅双樹の花の色  盛者必衰の理をあらわす  おごれる者も久しからず  ただ春の夜の夢のごとし  たけき者も遂には滅びぬ  ひとえに風の前の塵に同じ 奥 の 細 道  月日は百代の過客にして  行きかふ年も又旅人也  舟の上に生涯をうかべ  馬の口とらえて老をむかふる物は  日々旅にして旅を栖とす  古人も多く旅に死せるあり  予もいづれの年よりか  片雲の風にさそはれて  漂白の思ひやまず ・・・  枕 草 子  春は、あけぼの。  やうやう白くなりゆく、山ぎは少し明りて、  紫だちたる雲のほそくたなびきたる。  夏は、夜。  月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。  また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。  雨など降るも、をかし。  秋は、夕暮れ。  夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、  三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。  まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。  日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。  冬は、つとめて。  雪の降りたるは言ふべきにもあらず。  霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、  炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、  火桶の火も白き灰がちになりて、わろし。